福島市東部の岡山地区は、県内でも有数の野菜地帯である。
片平さんは、ホウレン草30ha、きゅうり17haなど野菜を56haと水稲40haの専業農家だ。
農業は片平さんで三代目。
30歳になる息子さんがいるが、「後を継ぐ気も継がせる気も」なく、農作業は繁忙期のごく一時期を除いて奥さんと二人。
「規模拡大して効率化したいとは思っているが、労働力には限界がある。
いつまでもオッカアと二人じゃできねエから、いずれいちご作りやってる人にでも貸すか」と考えている。
きゅうりは、約3分の1がパイプハウスでの栽培だが、これは、労働力を分散させるため。
「日中に収穫して、夜は箱詰めをやる。夜明けの少し前に仮眠して、明け方には出荷する。眠るヒマなんかほとんどなくなるんだ」
こういうスタイルでやっているから、農薬使用は不可欠だ。
「水田と畑の除草剤があるから(そちらの手間が省けて)きゅうりができる。
パイプハウスにしたのも、播種時期で1ヵ月半、収穫時期で1ヵ月、ピークの時期がズレる。オッカアと二人で何とかしていく工夫だ」
片平さんは、農業をやる上で農薬は「絶対に必要だ」という。
だから、「使わにゃならん時はなんぼ高くても使う」それが確実に省力化をもたらし、安定した収穫を保証することを知っているからだ。
もっとも、場合によっては使わないこともある。
「冬作のホウレン草には使ったことがねエ」そうだ。
冬には虫も病気も出ないから答えは明確だ。
「使わねエですむなら、誰も使わねエベ」これも明解。
「曲がらないきゅうりを作るために、農薬を使っているという話を聞きますが」と聞いてみたら、ひと呼吸置いて笑われた。
「曲った方がいいっちゅうなら、いぐらでも売ってやる。(曲がるのは)肥培管理をうまくやらないからだ。水分をまちがったのと窒素が不足しているせいだ。ちゃんと手かければ、きゅうりは曲がらねエ。まあふつうはA級(まっすぐ)とB級(曲がっている)では味はそんなに変わんねエけど」
いずれにせよ、十分に手をかければ、手をかけただけ、きゅうりはたくさん、いいものがとれるそうだ。
もうひとつ、片平さんが強調したことがある。
農薬のために、カエルやどじょうがいなくなったという話についてだ。
「(農薬が)全然関係ねエことはないかもしれないけど、洗剤やら何やら、生活排水の方がよっぽど悪さをしているはずだ。農薬使わねば、虫喰いだらけで売れる物は出せねエ」
片平さんもまた、後継者難にあえぐ最近の農業の実情を強く危惧している。
「ハウスやら、機械やらの資材費に金かけて、(投資分を回収していないめ)やめたくてもやめらんねエ人も多いんだ」
残留農薬検査