ロシア新興財閥(2008年)梅木豪之

プーチンが大統領に就任したとき、ロシアはボロボロだった。民営化のどさくさにまぎれて大金持ちが誕生した一方で、1992~1998年までに、GDPは43%も減少した。

国民は「エリツィン一家とオリガルヒが悪の元凶」と考えていた。彼らはエリツィン一家と癒着し、脱税は公然の秘密だった。そのせいで財政は破綻し、ロシアは借金なしでは存在できなくなっていると考えたのだ。

プーチン新大統領は就任早々、ベレゾフスキーとグシンスキーを横領・脱税などの容疑で追及。2人はほとんど抵抗できず、ベレゾフスキーは英国に、グシンスキーはイスラエルに逃亡した。

2003年には、当時石油最大手だったユコスのホドロコフスキー社長を同じ容疑で逮捕。カシヤノフ首相とヴォローシン大統領府長官(共に当時)、全野党(共産党・右派連合・ヤブロコ)を味方につけていたホドロコフスキーでさえ、元ロシア連邦保安庁(FSB)長官で、内務省・最高裁も支配していたプーチンには勝てなかった。

恐れおののいたほかのオリガルヒは、「政治に口出ししないこと」「税金をきちんと納めること」を誓う。横暴で傲慢な政商たちを心底憎んでいたロシア国民は、プーチンを英雄視するようになった。

そんな矢先、ロシア経済に神風が吹いた。原油価格が上がり出したのだ。ロシアで金融危機が起こった1998年、原油価格は1バレル=10ドルを割り込んでいた。今は110ドルを突破している。世界有数の産油国でもあるロシアにオイルマネーが洪水のように流れ込んできた。

プーチンを「史上最強のラッキーガイ」と呼ぶこともできるが、それは事実の半分でしかない。もしプーチンがオリガルヒの政治支配を終わらせ、脱税をやめさせていなければ、原油価格の高騰は数人の超富豪の懐を温めるだけだっただろう。

プーチンは、友人を社長に据えたガスプロム(国営)に、ベレゾフスキー(後にアブラモビッチ所有)の石油大手・シブネフチを吸収させた。これでガスプロムは、時価総額で世界3位に浮上。国営石油会社ロスネフチには、ユコス最大の子会社ユガンスクネフチガスを吸収させた。

ロスネフチは現在、ガスプロムに次ぐロシア第2の企業になっている。このように、プーチンはドル箱の石油・ガス部門を、オリガルヒから国家に取り戻すことにも成功した。

ちなみに、生き残ったオリガルヒのなかでは、「フォーブス」誌の世界長者番付でアブラモビッチが15位、フリードマンが20位、ポターニンが25位にランクインしている。4人のなかでは最も貧しいアヴェンですら資産3800億円を誇る。

プーチンは、「政治に干渉しないこと」「税金を納めること」の2つを守る限り、もうオリガルヒに手出しする気はないようだ。

42歳のメドベージェフ新大統領の下でも、新興財閥軍団は富を増やし続けていくことだろう。

梅木豪之